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“デジタル庁” 創設時からあった「官民癒着」の懸念と実情とは【甲斐誠】

「デジタル国家戦略 失敗つづきの理由」集中連載【第3回】

 

◆総裁選不出馬

 

「そのニュース、それ本当なんですか」。2021年9月3日正午過ぎ、初代デジタル相として初の定例会見に臨んだ平井卓也氏は、記者から菅義偉首相が総裁選不出馬を決めたことへの感想を求められ、やや声を上ずらせながら逆質問した。デジタル庁創設の提唱者であり、最大の支援者でもあった菅首相の退陣は、デジタル行政を巡る諸課題に大きく影響すると予想された。発足からわずか3日目の出来事だった。

 平井氏は「午後に総理にお会いする機会もあるので、本当なのか確認した上で発言する」と回答したが、動揺は隠せなかった。初代デジタル相である自身の去就も含めて、新総裁による組閣次第となったことが大きい。発足直前に「全力を尽くしてスタートダッシュしたい」と意気込んでいたが、想定が足元から崩れ、出ばなをくじかれた格好になった。多くの職員も、新政権のデジタル政策が固まるまでは、法改正を伴うような重要案件の判断ができなくなった。

 首相を議長として閣僚でつくる「デジタル社会推進会議」の初会合を9月5日に開くなど当初予定通りに進んだ案件はもちろんある。学識経験者や企業関係者らで構成し、国のデジタル政策に提言する「デジタル社会構想会議」も9月28日に初会合を開き、デジタル監就任が立ち消えとなった伊藤穣一氏らがメンバーとなって参加した。デジタル推進の面で国際競争力が下落傾向にある日本社会のてこ入れを図るとして、外国人材の活用や医療・教育のオンライン化などさまざまな論点が識者側から提起された。

 ただ、実務を担うデジタル庁は当時、政治的空白が生まれた影響で身動きが取りにくくなった上、さまざまな課題を抱えてもいた。例えば、省庁寄せ集めの即席官庁であることが災いし、職員同士の諍いや意思疎通の不全といったトラブルが相次いだ。経済産業、財務、総務各省関係者による主導権争いに関しては、事務方トップのデジタル監が調整に動いても良かったと思われるが、石倉氏はシンポジウムや講演、記者会見に引っ張りだこの状態。さらに、自身でも就任前に認めていた通り、行政組織での勤務経験はなく、運営ノウハウには疎かった。次第に名誉職的な位置付けが濃くなった。

 そして、発足から約1カ月後の10月4日、自民党の岸田文雄総裁が衆参両院の本会議で第100代首相に選出された。ほぼ同時に2代目デジタル相には牧島かれん・自民党元青年局長が就き、デジタル庁の発足を支えた平井氏は静かに去って行った。

(第4回へ つづく)

 

文:甲斐誠

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<内容>

過去を振り返れば、日本のデジタル国家戦略は失敗の連続だった。高い目標を掲げながらも先送りや未達成を余儀なくされるケースが多かった。なぜ失敗つづきだったのか? どうすれば良かったのか? 政府主導のデジタル化戦略の現場を密着取材してきた記者がつぶさに見てきたものとは何だったのか? 一般のビジネスマンや生活者の視点もまじえながら、「失敗の理由」を赤裸々に描写する。

■そこには、日本の組織や人材の劣化があった。読者は他人事とは思えない「失敗する組織」の構造を目の当たりにするだろう。

■さらに、先進IT技術の導入による社会変革、いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が急展開する中、われわれはどう適応し、どうやって無事に生き残っていくべきか? 「デジタル化失敗の理由」を20個厳選し、必須知識として本文中に詰め込んだ。

■セキュリティの厳しさから、DX推進の総本山であるはずのデジタル庁は、中央省庁の職員でさえ敷居が高く、全貌が見えにくい。急激に変貌する社会とわれわれはどう付き合っていけば良いのか? 本書ではデジタル庁とその周辺で今後起きる事態を予測しつつ、読者に役立つ知識を提供する。

<目次>

まえがき 日本のデジタル国家戦略は、なぜ失敗しつづけるのか 

第一章 即席官庁

理由1■創設前夜 

・時間365日 

・地方でも都市並みを提言 

・イット? 

理由2■15番目の省庁 

・人集め 

・虎ノ門から紀尾井タワーへ 

・幹部人事 

理由3■デジタル庁始動 

・新しい社会を 

・リボルビングドア 

・誓約書 

・総裁選不出馬 

第二章 監視社会

理由4■エルサルバドル仮想通貨大失敗のゆくえ 

・ビットコインを法定通貨に 

・ビットコインの街 

理由5■GPS管理される社員こそ本物の社畜 

・リモートワークで暴走する社員管理 

・「部屋を見せて」 

・ウェブ閲覧履歴はどこまで見られているのか 

理由6■社内メールで懲戒になる例とは? 

・東京都職員の例 

・心理的安全性 

・情報はどこまで守ってもらえるのか 

第三章 未完のマイナンバー

理由7■マイナンバーと口座の紐付けをぶち上げた総務大臣の苦杯 

・コストパフォーマンスが悪過ぎる 

・口座紐付け 

理由8■取った方が良いのか 

・キャバ嬢のケース 

・張り込み週刊誌記者の場合 

理由9■始まりは「国民総背番号制」 

・70年代に検討取りやめ 

・多数の不正利用 

・3度目の挑戦 

理由10■マイナンバーの登場、そして利用範囲の拡大 

・相次いだトラブル 

・信頼なき社会 

第四章 相次いで登場した政府開発アプリ

理由11■政府が推奨したCOCOA、失敗の原因 

・不具合

・8・5倍に膨らんだ契約額 

理由12■オリパラアプリ、思わぬ副産物 

・アプリ一つに73億円 

・転用、使い道広がる 

・電子接種証明書を開発 

第五章 システムとデータで日本統一

理由13■アマゾンを採用した日本政府 

・政府調達で日本企業の参加なし 

・システムトラブル 

・外資にやられる日本 

理由14■システム統一の野望 

・17業務 

・書かない窓口の普及 

・自治体は国の端末になるのか 

第六章 デジタル敗戦からデジタル統治への野望

理由15■敗北の実態 

・本当に負けていたのか 

・加古川方式 

理由16■新たな統治構造 

・役所から人が消える日 

・デジタル庁が思い描く未来 

・未来社会の到来を阻む障害とは 

・ネオラッダイト 

理由17■サイバー攻撃に耐えられるデジタル統治国家なんて幻想 

・世界初の国家標的型サイバー攻撃 

理由18■ウクライナvsロシアのサイバー戦争から何を学ぶか 

・サイバー空間での攻防 

・オンライン演説行脚 

・対策は? 

第七章 デジタル社会の海図

理由19■日本は大丈夫か 

・日本のサイバーセキュリティの現状は? 

・デジタル人材の育成は進むのか 

・移民受け入れで「開国」要求 

理由20■われわれは何を信じ、どこまで関わるべきなのか 

・信用できるネット社会

・ベースレジストリに漏洩の恐れはないのか

・法令データ検索 

・岸田政権が掲げたデジタル田園都市構想のゆくえ 

あとがき デジタル管理社会は日本人を幸せにできるのか

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甲斐 誠

かい まこと

ジャーナリスト

甲斐 誠(かい・まこと)

行政ジャーナリスト。1980年生まれ。東京都出身。大手報道機関の記者として、IT技術から地域活性化まで幅広いテーマで20年近く取材、執筆活動に従事。中部・九州地方での勤務を経て、東京の中央省庁を長年取材してきた。ラジオ出演経験あり。主な執筆記事にITmediaビジネスオンライン「失敗続きの『地域活性化』に財務省がテコ入れ」や「周回遅れだった日本の『自転車ツーリズム』」など。国と地方自治体の情報システム改革に伴う統治構造の変容など社会のデジタル化に関する課題を継続的にウォッチし続けるほか、世界遺産や民俗など地域振興に関連する案件の調査も行っている。今回、デジタル庁をつぶさに取材し、そこで目撃した事実を検証しまとめた電子書籍『デジタル国家戦略  失敗つづきの理由』(KKベストセラーズ)を刊行。デジタル庁の実情を題材にしながらも、「日本の組織の現状と問題点」を炙り出している。

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  • 甲斐誠
  • 2022.09.07